第15章 記憶の断片 【時透編 第1話】
(……まただ。霞がかった景色。触れようとしても掴めない。)
ポニーテールの女の子が笑っている。僕に問いかける声が、胸の奥を揺らす。
「無一郎くんって、____くんのことどう思っているの?」
(僕は……?)
その問いかけに応じるように、確かに自分の口が開いた。
けれど言葉の先が霞に溶けて、聞き取れない。
喉の奥で言葉が崩れていく。
(どう思っていたんだ、僕は。なぜ答えが思い出せない。)
女の子の顔は白い靄に包まれていて、表情が見えない。
それでも、彼女の瞳が僕を真っ直ぐに見ている気がする。
その視線に胸が痛む。
(なぜだろう……見えないのに、知っている気がする。懐かしい温度。優しい声。僕は、この人を……知っている。)
──記憶の奥で、小さな笑い声が響く。
風に混じるような、淡く切ない響き。
けれどそれは一瞬で途切れ、代わりに空っぽの静寂が広がった。
(思い出せない。僕は何を答えたんだ? どうして彼女は笑っていた?)
心の奥に、ぽっかりと穴が開いたような虚しさが広がっていく。
夢の断片は掴めない霧のように、僕の指先をすり抜けて消えていった。