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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第15章 記憶の断片 【時透編 第1話】


知令は布の上で膝をつき、アオイの指示で腕を伸ばす。呼吸に合わせて身体をひねる動作――小さな筋肉の動きも逃さず、無一郎は冷静に視線を送る。

「ゆっくり、もっと胸を開いて……はい、いい感じです」

アオイの声に、知令はわずかに微笑む。柔らかな笑顔は、先日の狂気の影をほんの少しだけ払うように見えた。

無一郎はそれを見て、ふと胸の奥がざわつくのを感じる。
――この声、どこかで聞いたことが……いや、違う。記憶じゃない。ただ……懐かしい気がするだけだ。

知令が刀の素振りを始める。短い距離を何度も前後に踏み、刀の重さを確かめるように振る。動作は正確で、力強さと柔軟さを兼ね備えていた。無一郎は瞬間的に、その動きの一部が、かつて見た誰かの姿と重なるように感じた。

――あの時……僕は確かに――

断片的な映像が頭をよぎる。
幼い日の自分――誰かの笑顔――光に包まれた影――そして……あの声。言葉にはならない、しかし確かに耳に残る響き。

無一郎は息を止め、視線を逸らさずに見つめる。冷静でいようと努めるが、心の奥で小さな疑問がくすぶり続ける。

――どうして、こんなにも……落ち着く気がするんだ?
――どうして、妙に心がざわつくんだ?

知令が振り返り、短く微笑む。

「無一郎くん、見てくれているんですか……?」

その声に、無一郎は一瞬目を伏せる。短く頷き、言葉は発さない。

しかし、心の中では、断片的な映像がさらに膨らむ。目の前の少女、揺れるポニーテール、微かな声……過去の自分とどこかで交わった記憶。

――いや、違う。過去じゃない……でも、どこかで見た気がする。
――この感覚は、俺の記憶なのか、それとも……ただの錯覚か。

無一郎は再び視線を知令に戻す。訓練に集中する彼女の姿は、狂気と悲しみの残像を消し、少しずつ日常の匂いを取り戻していた。

――それでも……目が離せない。
――どうして、俺はこんなにも……気になるんだ。

冷静さを装いながらも、心の奥では、微かに揺れる何かを確かめ続ける無一郎。彼の中で、断片的な記憶と現実が、静かに絡み合い始めていた。
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