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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第15章 記憶の断片 【時透編 第1話】


午後の光が差し込む蝶屋敷の一室。知令は布団の上で静かに座り、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。昨日までの狂気の余韻はまだ残っているが、体は徐々に落ち着きを取り戻している。

ふと、扉の向こうからかすかな物音がした。振り返ると、無一郎が静かに立っていた。目は冷たく、感情の読み取りは難しい。しかし、知令は昨日の狂気の最中に感じたような、どこか安心できる空気を再び感じた。

「……また来てくれたんですか。」

小さな声で問いかける。無一郎は答えず、ただ数歩近づき、部屋の隅に立つ。距離は縮まらず、視線も外さない。

知令は少し戸惑いながらも、目を細めてその姿を見つめる。

「……無理に話さなくても、いいんですよね」

無一郎は短く頷く。言葉は少ないが、否定するでもない。その沈黙の中で、知令は少しずつ心を落ち着かせる。

時間が静かに流れ、知令は布団に手をつき、そっと背伸びをする。無一郎は動かず、ただ観察する。だが、その視線が自分を見捨てずにいることを知令は感じた。

「……ありがとう、時透さん」

自然と漏れたその言葉に、無一郎は一瞬身体を揺らすが、ただ静かに立っている。彼女はその存在だけで、心の奥の小さな不安が和らぐのを感じた。

小さな信頼の芽が、まだ静かに、しかし確かに知令の中で息を吹き返し始める。
無一郎は冷静なまま、知令が心を落ち着けるのを見守る。言葉は少ないが、行動が確かに支えになっていた。

彼女は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。

「……少し、落ち着いたかもしれません」

無一郎は黙ったまま微かに顔をそむけ、窓の外の光に視線を向ける。言葉にはしないが、その存在感が、知令にとって確かな支えであることは変わらなかった。
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