第14章 簪【宇髄編 第1話】
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産屋敷邸の静謐な庭に、風鈴の音が微かに響く。
縁側で庭を眺める産屋敷耀哉の傍らには、控えるように宇髄天元が座っていた。
「天元、吉原に鬼が潜んでいるという報告が入っている。」
穏やかだが、揺るぎない声で耀哉は切り出した。
「吉原ですか。遊郭に鬼だなんて、ド派手に潜んでるってことでしょう。」
宇髄はニヤリと笑う。遊郭という言葉に、彼の派手好きの血が騒ぐようだった。
「ああ。しかし、音柱である君でも感知できない鬼だ。用心が必要だよ。」
耀哉の言葉に、宇髄は真剣な表情に戻る。
「……承知しました。俺でも探知できないとは、相当の強敵でしょうね。どうします、俺一人で向かいますか?」
「いや。まだ遊郭の鬼の情報が少ない。それに、君には他の任務も任せたい。」
耀哉は静かに首を振る。
「他の任務、ですか?」
宇髄が眉をひそめる。遊郭の鬼という任務が出来ないこと内心不満を抱く。
「ああ。君の鎹鴉が、義勇と知令の任務の様子を伝えてきたよ」
耀哉の言葉に、宇髄は驚いたように目を見開いた。
「知令、ですか。あいつ、冨岡と一緒だったんですか。」
「ああ。どうやら、知令は恐怖に震えていたらしいが、君の言葉を思い出し、任務を全うしたそうだ。」
「へえ、あの泣き虫が……」
宇髄は少し意外そうな顔をしながらも、嬉しそうに口角を上げた。
「……俺はあいつに、強くなってほしいんです。」
「強くなってほしい、か。そう思って、知令に簪を贈ったんだね。」
耀哉は静かに微笑む。
「……はい。あのガキ、すぐに泣くし、ヘタレだし、1人前の隊士になるなんて夢のまた夢だと思ってたんですが……」
宇髄は言葉を濁し、視線を遠くにやった。
「だが、あいつの目には、鬼殺隊に入る前から、何かが宿っていた。諦めない強さ、派手さがありました。」
宇髄は懐かしむように語る。