第14章 簪【宇髄編 第1話】
冨岡の声に合わせ、知令は一撃を放つ。刀が空気を切り、鬼の腕に浅く傷をつける。鬼は叫び声を上げ、わずかに後退する。
「……できた……!」
恐怖と安堵が交錯する。知令は軽く息をつき、簪をそっと握り直す。宇髄の言葉を思い出すたび、胸が熱くなる。
鬼は再び姿を現すが、冨岡と知令の連携は乱れない。攻撃の合間に、知令は冷静に敵の動きを分析し、最適な位置を見極める。冨岡はその判断に即座に反応し、二人の動きは自然と調和していく。
ついに、鬼が力尽きて倒れる。森に静寂が戻ると、知令は刀を握り直し、簪を見つめた。
「……私、少しだけ……前に進めたかな…。」
冨岡は無言で頷き、知令の肩を軽く叩いた。言葉は少ないが、信頼と評価がそこに込められていることがわかる。
ここには下弦の鬼がいたらしい。知令は補助の方に回り、冨岡と炭治郎の支援をしていた。
無事に2人が下弦の鬼を倒したと聞き、知令は力が抜け膝を着いた。
森を抜ける帰路で、知令は心の中でそっと呟く。
「宇髄さん……あの言葉、忘れてません。私、頑張りました……」
簪の感触が手のひらに伝わり、温かさと勇気を胸に、知令は次の任務へと歩き出す。恐怖と戦いながらも、宇髄の想いに支えられ、成長する自分を実感していた。