第14章 簪【宇髄編 第1話】
森の奥深く、霧が枝の間を漂う。知令の手は汗で少し滑りそうになったが、意識を集中させる。宇髄の言葉が、脳裏で繰り返される。「お前の努力は俺がちゃんと見てる」
――それが、恐怖を抑える小さな支えだった。
「…っ、見えないっ…怖い……!」
小さく震える声を漏らす。しかし、すぐに冨岡の冷静な声が飛ぶ。
「動揺するな。冷静に状況を判断しろ。」
知令は深呼吸し、刀の握りを固めた。森の奥から、鬼の低いうなり声が響く。枝の影がゆらりと動き、鬼の姿が浮かぶ。
「冨岡さん、右側です!」
知令の声に、冨岡は即座に反応。鋭く刀を振り、鬼の攻撃をかわすと同時に、知令に隙を作る。
恐怖で足が震む。刀を握る手がわずかに白くなる。だが、簪の冷たい感触と宇髄の声が心に力を与える。
「…絶対、殺す……!」
鬼が一気に飛びかかる瞬間、知令は冷静に動き、避けつつ反撃の準備を整える。冨岡との呼吸が合い、二人の攻撃は鬼の動きを封じ込める。
「よし……今だ、知令!」