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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第14章 簪【宇髄編 第1話】


霧が深く立ち込める那田蜘蛛山の森。落ち葉が踏みしめられる音だけが響く中、#NAME#は刀を握りしめ、足を踏み出した。視界は悪く、霧に隠れた鬼の気配がひそやかに迫る。

「──落ち着け、自分……。」

愛の呼吸を意識して、呼吸を整える。鴻雁愛力の型を思い出すと、鬼の動きがまるでスローモーションのように見えた。

「…左から来る!」

直感と分析が重なり、鬼の攻撃の軌道を見極める。刃を振り下ろし、的確に急所を狙う。鋭い斬撃が、鬼の肩を裂き、叫び声が霧に消えていく。

しかし、背後から別の鬼が現れ、知令の体勢を崩そうと襲いかかる。

「──愛及屋鳥!」

愛の呼吸弐ノ型。大切な人を守る想いを刃に乗せ、同時に複数の攻撃を繰り出す。鬼の動きは完全に封じられ、次々と倒されていく。

「…これで終わりじゃない……!」

鬼の数はまだ多い。緊張で心臓が跳ねるが、恐怖を力に変える。兼愛無私の型を用い、最小限の動きで回避しながら反撃に転じる。冷静に判断し、無駄のない動きで鬼を切り伏せていく。

霧が少し晴れた瞬間、知令は背後から近づく重い気配を感じた。振り返ると、水柱・冨岡義勇が、力強く斬撃を放って鬼を討っていた。

「…無茶するな…。」

真剣で厳しい声。知令は一瞬胸が熱くなる。けれどもその眼差しに、怒りだけではなく、信頼と期待の光を見た。

「…はい!」

知令はすぐさま呼応し、再び鬼に斬撃を浴びせる。互いの間合いを確認し合いながら、息の合った連携で鬼の群れを切り崩す。

「…ふっ、まだだ……!」

最後の鬼に向かって、力を振り絞る。愛の呼吸肆ノ型・愛多憎生。日輪刀を強く握り、精神の全てを刃に託す。一振りで鬼を討ち果たす瞬間、知令の胸には深い達成感と安堵が同時に訪れた。

霧が晴れ、森に静寂が戻る。互いに刀を下ろし、呼吸を整える。傷一つ負わず、無事に戦いを終えた知令の目は、まだ震えているが、確かな自信に満ちていた。

冨岡が近づき、刀を収めながら言った。

「…よくやったな。」

その言葉に、知令の口角が上がる。戦いの疲労を超え、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「…はい、ありがとうございます!」

戦いの緊張と恐怖を乗り越え、知令は静かに、しかし確かに一歩、強くなった自分を実感したのだった。
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