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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第14章 簪【宇髄編 第1話】


森の木々がざわめく中、知令は宇髄から貰った簪を挿し、一歩一歩足を進めた。風が枝を揺らし、落ち葉がかすかに舞い上がる。胸の中には、まだ揺れる恐怖と、覚悟が混ざり合っていた。

「──大丈夫、私ならできる……」

自分に言い聞かせるように、日輪刀の柄を握りしめる。掌に伝わる冷たさが、意識を現実に戻す。宇髄が言っていた言葉が、胸の奥で小さく響いた。
“お前の成長、ちゃんと見てるぞ。”

その声を思い出すと、自然と背筋が伸びる。孤独ではない。誰かが見ている――その想いだけで、力が湧いてくるようだった。

途中、鎹鴉の銀次郎が舞い降り、任務地の位置を知らせる。眼下に広がる山道は、霧が立ち込め、視界を遮る。鬼の気配はまだ感じられない。しかし、空気が異様に重い。

「……来る。近い、絶対に……」

恐怖が心を締め付ける。両親を失ったときの記憶が、脳裏をよぎる。あの時、逃げることしかできなかった自分。だが今は違う。刀を握る手に、迷いはない。

「私が……守る。誰も、あんな目に遭わせない……」

覚悟を決めた瞬間、日輪刀の先に微かな光が宿る。呼吸を整え、炎のように心を燃やす。愛の呼吸の力を、自分自身に誓うための儀式のように。

霧の向こう、岩陰に鬼の気配が漂う。心臓が跳ねる。しかし恐怖だけではない。勇気と覚悟が、恐怖の上に積み重なる。

「──来い!」

知令は静かに叫び、刀を構える。霧の奥で、鬼の影がゆらりと動く。音もなく、しかし確かに迫るその気配に、知令の目は真剣そのものに光る。

“私は、もう逃げない――必ず、守る。”

その瞬間、孤独ではないことを改めて実感する。宇髄の言葉、蝶屋敷での稽古、共に過ごした日々――すべてが、この瞬間の力となる。

知令の刃先が揺れる霧を切る。鬼の咆哮が森に反響し、戦いの幕が静かに、しかし確かに上がった。
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