• テキストサイズ

【鬼滅の刃】屋烏の愛

第14章 簪【宇髄編 第1話】


それ以降、宇髄は療養中の間、彼女の手合わせを行うようになった。

薄曇りの空の下、稽古場の板張りに木刀の音が乾いた響きを立てる。
知令は汗を散らしながら必死に宇髄の刃筋を追いかけていた。

「……はぁ、はぁっ……!」
呼吸が乱れても止まらない。その姿に、宇髄は口角を上げる。

「お前、一人でやってるときよりずっと動きが鋭いな。……俺が相手だと気合が入るってことか?」

軽口に返す余裕もなく、知令はただ木刀を振る。だが次の瞬間、宇髄がふっと間合いを詰めた。
木刀を弾き飛ばされ、体ごと背後に回られ、ぐいっと腰を押さえ込まれる。

「っ……!」

背中に宇髄の胸板が当たる。熱い息が耳に触れ、知令の頬が一瞬で赤く染まった。

「おいおい、簡単に懐に入らせすぎだ。命取りになるぞ。」

低い声が鼓膜を震わせる。

「……わ、分かってます……!」

震える声で返すが、腰を支える手が離れない。まるで弄ぶように、宇髄は更に顔を寄せた。

「分かってないな。体はこう……重心を落とせ。」

囁く声と同時に、彼の手が知令の腰を軽く押し下げる。自然と背中に密着し、息が絡まる距離。

「ほら、悪くないだろ。お前、努力はちゃんと形になってきてる。」

耳朶を掠める声が甘い。

知令は胸が締め付けられるように熱くなり、視線を逸らした。

「……からかわないでください……」

「からかってるように見えるか?俺は……お前が頑張ってるの、ちゃんと見てるって言ってんだよ。」

木刀を持つ手よりも、支えられた腰の感触が意識を奪う。鼓動が早くて、稽古とは思えないほど。
宇髄は、わざと知令の頬の赤みを確かめるように視線を落とし、満足そうに笑った。

──まるで稽古を口実に、彼女の心を弄んでいるかのように。
/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp