第14章 簪【宇髄編 第1話】
掛け声とともに、二人の竹刀が打ち合わされた。
乾いた音が庭に響き、知令の腕に衝撃が走る。宇髄は本気ではない――だが、受け止める力の重みは圧倒的で、息が詰まりそうになる。
「力みすぎだ。もっと肩の力を抜け。」
「は、はいっ!」
繰り返す打ち合い。額に汗が滲み、息が乱れる。それでも宇髄の言葉に導かれるように、知令の動きは次第に滑らかになっていった。
やがて竹刀を交差させたまま、二人の距離が自然と近づく。宇髄の赤い瞳が、間近からじっと知令を見据えていた。
「……やっと目が覚めた顔してんな。」
「え?」
「悲しみに沈んでるだけじゃねぇ、前を向こうって顔だ。」
心臓が跳ねた。
その言葉に、知令は必死に堪えていた涙が零れそうになる。
「俺がいる。だから、一人で背負い込むな」
低い声に、竹刀越しの手がじんわりと温かい。
知令は頷き、小さく息を吐いた。
「……はい」
竹刀を離しても、まだ心臓の高鳴りは収まらない。
夕暮れの光に照らされる宇髄の横顔は、やけに眩しく見えた。