第14章 簪【宇髄編 第1話】
宇髄は知令の手元の竹刀を拾い、軽く差し出す。
「自分を壊すような稽古は、粋じゃねぇ。」
知令はその竹刀を受け取り、必死に問いかける。
「……じゃあ、どうすれば……?」
宇髄はふっと笑みを浮かべた。
「さっきの簪。あれ、似合ってたぞ」
思わぬ言葉に、知令は耳まで真っ赤になった。
「な、なんで……急に……!」
「派手なもんを贈るのは俺の趣味だ。それをつけてる限り、お前は俺の弟子だろうが仲間だろうが──どこにも一人で行かせねぇ。……忘れんな」
知令の胸が、熱くなる。
涙がにじみそうになって、必死にうつむいた。
「……宇髄さん……」
「よし。じゃあ次は、俺が稽古つけてやる。」
「え……?」
「ひとりでやるんじゃねぇ。相手がいなきゃ、派手な稽古は成り立たねぇだろ?」
宇髄は不敵に笑い、竹刀を構えた。
その眼差しには厳しさもあったが、どこか頼もしさがあった。
知令は小さく頷き、竹刀を握り直す。
頭に揺れる簪が、ちり、と鳴った。
それは、ひとりで背負い込んできた心に差す、初めての光のように思えた。