• テキストサイズ

【鬼滅の刃】屋烏の愛

第14章 簪【宇髄編 第1話】


療養院の白い襖を押し開けると、夏の陽が眩しく差し込んだ。
今日も彼はくる。

「ほら、いつまでも寝てたら体も心も鈍る。少し付き合え。」

宇髄天元は豪放に笑いながら、片手で知令を立たせた。大きな掌に引かれて廊下を歩くだけで、鼓動が早まる。

「……どこへ、行くんですか。」
「決まってんだろ。気晴らしだ。俺様の派手な案に逆らうなよ?」

そうして辿り着いたのは、賑やかな城下町だった。祭りでもないのに華やかな暖簾や香の匂いが漂い、人々の声が波のように重なり合っている。
 知令は久しく忘れていた人混みの温度に、思わず足を止めた。

「怖気づくな。お前には似合うもんを探すんだ。」

宇髄はそう言って、真っすぐ髪飾り屋へと足を向ける。

並んだ簪は、桜花を象ったもの、七色のガラス玉を連ねたもの、金細工の細やかなものまで――まさに「派手」の宝庫だった。

「……簪、ですか。」
「そうだ。女は飾ってこそ映える。特にお前はな。眉を寄せて、影みたいな顔しやがって……少しは華やかにしろ。」

知令は言葉を失った。
両親を失い、悲嘆と怒りの渦に沈んでいた自分の顔を、彼は見抜いていたのだ。

宇髄は迷いなく一本を手に取る。紅い石を散らした簪。陽光を浴びて、小さな炎のように輝いていた。
「これだな。お前の眼には、まだ火が残ってる。死んでなんかいない。」

その一言に胸が熱くなる。

「……私に、似合いますか?」
「似合うに決まってんだろ。俺様の目は節穴じゃねぇ。」

不器用に、しかし優しく、宇髄は知令の髪をすくい上げ、簪を差した。金属がかすかに鳴り、光が頬を照らす。

町のざわめきも、痛みも、今は遠く霞んでいた。
/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp