第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
包帯を巻き終え、不死川は荒く息を吐くようにして手を離した。
「……これでいいだろ。医者の真似事なんざ性に合わねぇが、放っとけねぇからな。」
知令は手元の包帯を見つめ、少しの沈黙の後、おずおずと口を開いた。
「……あの、不死川さん……」
「ん?」
ぶっきらぼうに応じる声。だがその目は、ちゃんと彼女を見ている。
「……その……もうちょっとだけ、ここにいてもいいですか?」
知令の声はか細く震えていた。まるで子どもが親に甘えるような、そんな小さな願い。
不死川は一瞬、目を見開いた。
「はあ? ……ったく、お前なぁ……」
文句を吐きかけたが、言葉の続きを飲み込み、大きく肩をすくめた。
「……仕方ねぇな。少しだけだぞ」
荒っぽくそう言いながらも、不死川は壁にもたれ、知令の隣に腰を下ろした。
知令は安心したように小さく微笑み、そっと彼の袖口を摘まんだ。
「……ありがとうございます。不死川さんがいてくれると……なんだか安心します。」
顔を真っ赤にしながら、震える声で言葉を紡ぐ。
不死川は顔をそむけ、鼻で笑った。
「安心だぁ?俺はお前を怒鳴りつけてばっかりだろうが」
「でも……怒鳴られても、ちゃんと守ってくれるじゃないですか」
知令の素直な言葉に、不死川の肩が僅かに揺れる。
数秒の沈黙の後、彼は小さく、誰にも聞かせないような声で呟いた。
「……お前、ほんっと……」
その横顔は、普段の荒々しさとは違って、どこか照れ臭そうに頬が緩んでいた。
廊下を吹き抜ける風が、二人の間を優しく撫でていく。
ほんの短い時間だったが、それは確かに、不死川実弥と愛染知令にしかない、特別な瞬間だった。