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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】


蝶屋敷の廊下。静まり返った空間に、知令の小さな足音が響く。疲労と血の匂いをまとい、日輪刀を握ったまま、彼女はゆっくりと療養室へ向かう。頬にはかすり傷、腕や肩には打ち身や擦過傷がいくつも残っている。

「……はわわ…こんなに…」

小さく息を吐き、知令は傷を気にして肩をすくめる。普段の気弱な彼女の仕草が、余計に守らなければならない存在感を強める。

その時、不意に背後から低く、荒々しい声が響いた。

「……何やってんだ、お前。」

振り向くと、不死川実弥がそこに立っていた。腕組みをし、眉間に深い皺を寄せ、口元は険しい。だがその目は、冷たくも優しい光を宿している。

「き、きゃ……不死川さん……。」
知令は思わず小さく震えた。

不死川は一歩踏み出すと、躊躇なく知令の顔を覗き込み、頬のかすり傷に手を伸ばした。荒っぽくも、どこかぎこちないその仕草に、知令は心臓が跳ねる。

「……ふざけんな。お前、無茶しすぎだろ。」

声は怒り混じりで、刀を握る手に力がこもる。だが、その裏には「お前を傷つけさせたくない」という強い想いが隠されていた。

「ご、ごめんなさい…」

知令は小さく俯き、頬を赤く染める。だが不死川はそれを許さないように、手早く傷の手当てを始める。荒っぽく包帯を巻き、患部を冷やす。

「……ち、ちょっと! 不死川さん、痛いです!」

知令の声に、不死川は軽く眉をひそめる。

「……悪い。でも、ちゃんと治すんだ。お前が無事で帰ってくるまで、俺は黙ってられねぇんだよ。」

その言葉に知令の心はじんわり温かくなる。荒々しい口調なのに、想いが隠せない。小さな声で、でも確かに──

「……ありがとうございます…不死川さん…」

不死川は手を止めず、淡々と手当を続ける。けれど、ふと視線を上げると、知令の目にほんの少しの涙が光っているのを見逃さなかった。

「……次は無茶するんじゃねぇぞ。」

低く荒い声で呟くその言葉に、知令は小さく頷く。心の奥底で、守ってくれる誰かがいる安心感と、芽生え始めた想いが混ざり合う。

廊下には静寂が戻り、包帯の匂いと彼の荒々しい声だけが、ふたりだけの時間を染め上げる。
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