第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
彼の傷口を包帯で巻き、手当が終わる。すると、彼は小さく、しかし、しっかりと呟いた。
「……俺だって……弱いとこ、見せたくねぇんだぞ。」
荒々しく言うが、手は知令の髪や頬をそっと撫でる。
「…でも……お前が泣くなら……」
言葉は途切れ、でもその目は真剣だ。
あなたは静かに顔を上げ、彼の目を見返す。
胸の奥で、任務中の恐怖も、孤独も、全部打ち明けたくなる。
「……不死川さん……」
その一言で、彼は肩の力を抜き、近づき、知令の手をぎゅっと握る。手の熱が伝わり、二人の距離は自然に縮まった。
「……まじで変な奴だな…お前。」
小さく呟くが、その声は柔らかく、怒りではなく愛情が滲む。
夜の闇の中、互いの鼓動を確かめるように、肩を寄せ、手を握る。
不器用な不死川の優しさは、荒削りで不格好だが、心に温かく染み込む。
「……俺、お前のこと……もう放っとけねぇかもな。」
その言葉に、彼女の心も震える。はわわ、と小さく驚きながらも、知令は目元に笑みを浮かべていた。任務で見せた強さも、恐怖も、全部、互いに共有できる存在だと気付く瞬間だった。
夜風に揺れる髪と、不死川の温もり。
まだぎこちないけれど、二人の距離は確実に近づいてる。
その時、鎹鴉の銀次郎が窓から入ってきて伝えた。
「…チッ!知令!那田蜘蛛山で鬼が多数出没。救援の要請!行け!行けのろま!」
知令の指先がわずかに震えた。
血の気が引いたような彼女の横顔を、不死川は黙って見つめる。
数秒の沈黙の後、彼はふっと鼻を鳴らした。
「……行ってこい。」
知令が驚いたように顔を上げる。
「で、でも──」
「躊躇すんな。任務は任務だ。……行くしかねぇよ。」
その声は荒いが、奥底には彼女を突き放すまいとする熱が潜んでいた。
「……一匹残らず、ぶっ殺して来い。」
鬼殺隊の柱としての厳しさ。
けれど、知令には分かる。そこには彼なりの祈りと願いが込められていることを。
「……不死川さん」
瞳を潤ませながら、彼女は小さく頷いた。
彼の背に吹き抜ける風は冷たく、けれど胸の奥には確かな熱が灯っていた。
──それはまだ言葉にならぬ想い。だが確かに、互いの心を結ぶものだった。