第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
夜が更け、森の静寂が二人を包んでいた。任務の疲れで、体は重くとも、胸の高鳴りは止まらない。傷をしっかり手当てするために戻った蝶屋敷で、知令はまだ手元のノートに鬼の動きをまとめていた。
背後から、低い呼吸音が近づく。振り返ると、不死川がそこに立っていた。夜の影に紛れ、普段の荒々しい雰囲気がより強く映る。
「不死川さん」
「…まだ起きてんのか。寝ろ、バカ。」
短く言うが、その声にはいつもの苛立ちだけでなく、微かな心配が混じっている。
「…不死川さん、怪我は?」
彼女の問いに、彼は答えずに少し距離を詰める。手には包帯や薬を持っているわけではない。ただ、知令を見守るだけの存在になっていた。
「……応急処置、さっきお前がやっただろうが。」
顔を逸らし、言葉は強がり混じり。でも、彼の瞳は静かに揺れている。
「…でも、痛いところはちゃんと、手当てしてほしいんです。」
あなたの声は震えていた。疲れと緊張、そして任務中の恐怖が混ざる。
不死川はその言葉に目を細め、ゆっくりと歩み寄る。
「……ったく、面倒くせぇな。」
その手は乱暴にあなたの肩に触れるが、熱い。痛みと温もりが、心の奥にまで届く。
「…傷はそんなに深くないので…消毒すれば」
消毒液を使い優しく腕の傷跡をぽんぽん叩いた。すると染みたようで一瞬、苦痛の表情を見せる。
「ってぇ!てめぇ、ちっとは優しくしろ!」
「ひゃああぁっ!すみません…」
「…ったく。」
知令の申し訳無い態度を見て、不死川が小さく舌打ちをした。しかし、普段の強面はなく、ただ、守りたい者を見る兄のようなまなざしをしていた。