第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
鬼の咆哮が山肌に反響する。二体の鬼がこちらに迫り、鋭い爪と牙が光を裂いた。
「気を抜くな!」
不死川実弥の声が鋭く響き、風の呼吸で一体を斬り払う。その動きは華麗ではないが、力強く、無駄のない軌道で鬼をねじ伏せた。
知令も呼吸を整え、愛の呼吸を展開する。
「愛の呼吸、壱ノ型、鴻雁愛力!」
敵の動きを分析し、最も安全な位置から急所を狙い、確実に斬撃を打ち込む。鬼は悲鳴をあげて後退した。
「……効いてるな。」
不死川が、少しだけ口元を緩める。しかしすぐに眉をひそめ、次の鬼に向き直る。
「お前、無茶すんなよ。」
あなたは少し驚きながらも頷く。戦いの最中、背中越しに届く彼の視線は、言葉に出さないまでも守る意志が感じられる。
鬼の一撃があなたの横をかすめる。瞬間、恐怖に足がすくむ。心臓が高鳴り、呼吸が乱れる。その瞬間、不死川が割り込む。
「……っ、危ねぇだろ!」
彼の刃が鬼を切り裂き、間一髪であなたを守った。腕に伝わる衝撃と熱。怒声と共に、心臓の鼓動も暴れた。
「ふぇ…ごめんなさい……!」
知令の声は震え、膝に力が入らない。
「……チッ、泣くな。」
短く荒い言葉。だが、彼の手がそっとあなたの肩に触れ、力強く押さえつける。慰めというより、守るための手の動きだった。
戦いが一段落すると、鬼は山の闇へと消えた。二人は互いに息を整える。汗と埃にまみれた顔が、月明かりに照らされる。
「……よくやったな。」
不死川の声は低く、しかしどこか柔らかさを含んでいた。目が合うと、普段の冷たさとは違う、ほんのわずかな安堵が映っている。
知令は小さく笑みを返す。
「不死川さんも、怪我はありませんか?」
「……俺は大丈夫だ。」
短い返事の裏に、わずかに気遣いが滲む。あなたはそれを見逃さなかった。
二人の間に言葉は少ないが、戦いを通じて信頼が少しずつ芽生えていく。互いの呼吸、互いの背中、そして互いの心の距離が、戦闘の緊張を経て自然に縮まっていた。