第2章 頭脳という刀
「恋の呼吸」の修行は、私が想像していたよりも遥かに過酷なものだった。
「ひゃー!今日も可愛く特訓しちゃうわよ!」
蜜璃さんの声は明るいが、その内容は地獄だった。
彼女は、まるで体操選手のようにしなやかな体で、岩を軽々と飛び越え、滝に打たれ、そして何百回と刀を振るう。
「さあ!あなたもやってみて!呼吸を整えて、もっと速く、もっと力強く!」
しかし、私の体は、彼女のようにしなやかではなかった。
岩を飛び越えようとすれば、足がもつれて転んでしまう。滝に打たれれば、息が続かず溺れそうになった。そして、何百回と刀を振るうことは、私の非力な腕には不可能だった。
「…ごめんなさい、蜜璃さん。私には、どうしても…」
何度も失敗し、膝を抱えてうずくまる私に、蜜璃さんは何も言わずに隣に座った。そして、私がつけていた修行の記録ノートに目を落とした。
「あのね、私の呼吸は、すごく筋肉を使うの。だから、体が柔らかくて、力持ちじゃないとダメなのよ。でも…君は違うわ。」
彼女は、私が修行の合間に書き留めていた、「恋の呼吸」の動作分析や呼吸法の効率化についてのメモを指さした。
「すごいわ、あなた!この呼吸法なら、もっと肺活量がなくても、体の柔軟性がなくても、同じような威力を出せるかもしれない!この特訓も、このやり方ならもっと効率的になるんじゃないかしら?」
その言葉に、私は初めて自分の持つ「頭脳」が鬼殺隊で活かせるのではないかと実感したのだった。
その日以来、私の修行は変わった。
蜜璃さんの過酷な特訓はそのままだったが、私はそれを『「頭脳」という刀』で乗り越えていった。
たとえば、滝に打たれる修行。私は呼吸法を使い、水の流れを頭の中で計算し、最も抵抗の少ない角度で水を受け止める方法を見つけ出した。
そして、水圧に耐えるための筋肉の動かし方や、体の重心の安定方法を徹底的に分析した。
初めは、ただ流されるだけだった体が、次第に水流をいなし、受け流せるようになっていった。それは、打たれ強さを身につけるための、私だけの修行だった。
岩を飛び越える修行では、重心の移動や体の使い方を論理的に組み立て、最小限の力で飛び越えられるようになった。