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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】


稽古場の畳に、昼の太陽が差し込んでいた。
柱たちの中でも屈指の剣技を誇る不死川実弥が、腕を組んで仁王立ちしている。その鋭い目に射抜かれた瞬間、知令は背筋が自然と伸びた。

「……やる気はあるんだろうな。療養明けだからって、手加減はしねぇぞ」

「は、はいっ! お願いします!」

胸の奥がぎゅっと縮む。彼の荒い言葉には棘があるのに、不思議とその奥にある真っ直ぐさを感じ取れるから。怖さと同時に、どこか安心してしまう。

竹刀がぶつかり合い、畳の上に乾いた音が響く。実弥の動きは速く、力強い。知令は必死に食らいつくが、数合も受けるうちに腕が痺れ、息が乱れてくる。

「遅ぇ!まだ治りきってねぇんじゃねえのか!」
「っ……そ、そんなこと……っ!」

涙がにじみそうになりながらも、知令は必死に構え直した。けれど次の瞬間、実弥の竹刀が肩を叩き、強引に体勢を崩される。

畳に倒れ込む瞬間、腕を引かれ、知令は実弥の胸元に押し付けられるように支えられた。
間近で見る彼の顔は、怒鳴り声とは裏腹にほんの少しだけ柔らかい。

「……泣きそうなツラしてんじゃねぇよ。」
「ご、ごめんなさい……!」

必死に涙を拭おうとする手を、実弥の大きな手が乱暴に押さえた。

「謝んな。お前が弱ぇなんて思っちゃいねぇ。ただ……俺が見てんのは、鬼の前で怯えねぇお前だ。稽古で泣かれると……胸糞悪ぃんだよ」

その言葉の裏に、心配と苛立ちがないまぜになっているのを知令は感じた。
鬼の前で怯えてほしくない、───そんな不器用な想い。

「……不死川さん」

呼んだ声が小さく震える。実弥は顔をそむけ、耳まで赤く染まっていた。

「チッ……泣く暇もねぇくらい叩き込んでやる。覚悟しとけ。」

そう吐き捨てながらも、その手はしっかりと知令の腕を支えていた。
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