第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
「…私は……両親を…守れなくて…」
言葉が途切れる。涙が止まらず、嗚咽が夜明けの静かな庭に響いた。
不死川は布団を軽く引き寄せ、私の肩に手を置いたまま静かに言う。
「…俺も、守れなかったものがある。てめぇも知ってんだろ。だから、怖い気持ちは分かる。」
その言葉に、私ははっと息を飲む。荒々しい彼の声の中に、ほんのわずかな共感が隠れていることに気づいたのだ。
しばらく沈黙が続く。互いに何も言わず、ただ存在を感じ合うだけの時間。朝の光が差し込み、風がそっと二人の間を通り抜ける。心の奥にあった緊張が、少しずつ緩む。
「…知令、泣き止んだか?」
「…はい…少し…」
微かに肩を揺らしながら頷く私に、彼は乱暴に頭を撫でる。痛みではなく、確かに触れているという安心感があった。
「…チッ、変な奴だな。でも、まあ…少しは落ち着いたみたいだな。」
私は小さく微笑み返す。涙で湿った頬を手で押さえながら、心の中で誓った。
「私も、少しずつ、前に進もう。」
庭に差し込む朝日の中で、恐怖と悲しみを抱えつつも、不死川の存在が私の心に静かな支えを生む。その日、私は初めて、孤独の中でも誰かと心を分かち合える感覚を味わった。
夜が明け、療養の日々の終わりが近づく。まだ悲しみは完全には癒えないけれど、私は確かに前を向く準備ができつつあった。そして、不死川との絆は、少しずつ深まっていく――そんな日々だった。