第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
夜が深くなると、蝶屋敷は静寂に包まれていた。月明かりが障子越しに差し込み、部屋の床に淡い光の筋を描く。風がそっと障子を揺らす。
私は目を閉じ、両親のことを思い返していた。笑顔で鬼殺隊へ見送りしてくれた日。そしてあの日の無惨な鬼に奪われた最後の瞬間。胸の奥が焼けるように疼き、自然と涙が溢れた。
「ふぇ…うぅ……」
震える声と共に、心の中の怒りと悲しみが渦巻き、身体が熱を帯びる。両親を失った悲しみと、守れなかった無力さ。布団に顔を埋め、震える身体を抑えようとするが涙が止まらない。悲しみと恐怖が入り混じり、呼吸すら乱れている。
扉の外から、慌ただしい足音が聞こえた。次の瞬間、荒々しい声と共に不死川実弥が現れる。
「……おい、また泣いてんのか。いい加減、顔を上げろ。」
その声は厳しいけれど、どこか心配も混じっている。私は顔を伏せたまま小さく震え、言葉も出ない。彼は布団の縁に腰を下ろし、静かに手を伸ばして肩に触れる。
「……恐怖で震えてるだけだろ?それなら、無理に強がる必要はねぇ。」
彼の声の乱暴さとは裏腹に、その手の温もりが私の心を少しずつほどいていく。私は震える手で布団を握りしめながら、ようやく小さく頷いた。