第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】
夕暮れが蝶屋敷の庭を柔らかく染め、空は茜色から紺色へと移ろうとしていた。知令は縁側に座り、膝に置いた日輪刀を見つめる。鍛錬の疲れが体を包むが、心は静かに満たされていた。
そこへ、煉獄がゆっくりと近づいてくる。稽古の後の汗で少し髪が乱れ、光の中で輝いて見える。彼はそっと膝に座る知令の隣に腰を下ろし、互いの距離は自然と近くなる。
「今日の動き、随分良くなったな。」
煉獄の言葉には、単なる指導以上の温かさが含まれていた。知令は恥ずかしさと胸の高鳴りを感じながらも、微笑を返す。
「煉獄さん……、私……もっと強くなりたいです。あなたと一緒にいても恥ずかしくないように。」
声が少し震える。胸の奥で、憧れだけでなく、守られたいという少女らしい想いが静かに膨らむ。
煉獄は短く頷き、腕を軽く伸ばして彼女の肩に触れる。その距離のわずかさが、知令の心臓を強く打つ。温かい体温、わずかに香る匂い、彼の瞳の奥にある優しさ――すべてが五感を通して伝わり、少女としてのときめきを胸に刻む。
「知令、お前は強い。だけど、心も忘れるな。呼吸も、剣も、全ては心から生まれるんだ。」
その言葉に、知令は深く頷く。体は疲れていても、心は彼の存在で満たされ、安らぎと興奮が交錯する。