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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】


蝶屋敷の庭が昼の陽光で暖かく照らされる時間帯。知令は布団から起き上がり、軽く体を伸ばすと、隣に置かれた日輪刀を手に取った。まだ完璧には治っていない傷が痛むものの、昨日よりも体が動くことを感じる。

ゆっくりと刀を振るたびに、昔教わった蜜璃の恋の呼吸の動きを思い出す。そして自分が編み出した「愛の呼吸」の型――鴻雁愛力、愛及屋鳥、兼愛無私――をひとつずつ確認しながら体に染み込ませていった。

「うむ。今日も稽古か?」

庭の入口で声をかけられる。振り向くと、煉獄が、いつもの力強い笑顔で立っていた。彼の存在は、戦場の恐怖や疲労を忘れさせるほどの安心感と高揚感を知令に与え自然と笑顔になった。

「はい!煉獄さん。今日は型の確認を……」

言葉を詰まらせながらも、胸の奥で高鳴る鼓動を感じる。煉獄の視線が、自分の動きを真剣に追うたびに、自然と心が引き締まる。単なる稽古相手としてだけではなく、彼の評価を得たいという小さな焦燥が、知令の体と心を動かす。

「お前、呼吸のタイミングが少し遅いな。」

煉獄が指摘する。知令は深呼吸し、鴻雁愛力の一振りを慎重に繰り出す。刀先が的確に相手の想定位置を突き抜ける感覚に、胸の奥で喜びが膨らむ。

「そうそう、その調子だ。型の流れも良くなっているぞ!」

言葉と微笑みに、知令は思わず顔を赤らめる。汗に濡れた髪をかき上げながら、熱い胸の内をどうにか落ち着けようと呼吸を整える。自分を見守ってくれる存在、共に強くなろうとする戦士としての彼の姿勢、そして少しずつ芽生える恋心───すべてが胸の奥で混ざり合い、強く自覚せざるを得ない感情を生み出していた。

日が傾く頃、稽古を終えた知令は縁に腰を下ろし、刀を膝に置く。夕陽に照らされる庭と、汗に濡れた自分の髪に、彼のことを思い浮かべる。戦場での尊敬だけでなく、静かな時間の中で感じる温かさに、胸の奥がじんわり熱くなる。戦士としての成長意欲と、少女としての恋心───どちらもが、自分を動かす大切な力になっていることを知令は確かめた。
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