第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】
蝶屋敷の庭に朝日が差し込み、淡い光が障子を通して柔らかく室内を満たす。布団の中で目を覚ました知令は、まだ夢の残像に体を震わせた。
昨夜の累との激闘を思い出す。家族がどうしても欲しかった累の事が、何故か、両親を失ったあの日の惨劇、血の匂いとリンクさせて思い出してしまう。
外から聞こえる小鳥のさえずりや木々のざわめきが、ほんの少しだけ心を落ち着かせた。
隣の床には日輪刀が置かれている。指先でそっと触れ、その冷たさと重さを感じながら、知令は自分がまだ生きていることを確かめた。体のあちこちに残る筋肉痛や打撲痕も、隊士としての覚悟を思い出させる。心の奥ではまだ、両親を失った悲しみと復讐心が渦巻き、一刻でも早く鬼を殲滅したいと考えるが、今は静かに、静養を取るしかない。
看護の隊士がそっとお茶を運んできた。湯気が立つ茶碗を手に取り、熱さを指先で確かめる。
生きるための呼吸、温かさ、そして存在───それを実感することで、知令は少しずつ胸のざわつきを抑える。
息を整えながら、無意識に心の中で問いかける。
「私の力は……どうすればもっと役に立つのだろう?」
そんな静かな朝に、煉獄のことを思い浮かべる。
戦場での圧倒的な力、まっすぐに仲間を守る姿勢、そして誰にでも分け隔てなく接するその人柄…。
噂を耳にするたび、胸の奥に小さな高鳴りが芽生える。戦場では尊敬と憧れだけだった感情が、稽古や二人での時間を経て、今はほんの少し違う色を帯び、知らず知らずのうちに心を照らし始めていた。
午後になり、窓辺に腰を下ろした知令は、柔らかな日差しの中で静かに瞳を閉じる。両親を失った悲しみはまだ完全には消えていない。きっと今後も消えることは無いだろう。
しかし、煉獄の存在が、心の奥底に光を灯す。戦士としての成長、そして、戦いの後でも思い出すだけで心が温かくなるような、かすかな恋心───そのどちらもが、知令を少しずつ前へ進ませる力となっていた。