第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】
累の糸が宙に舞い、最後の攻撃を仕掛けようとした瞬間、知令は刀を握る手に力を込める。
心の奥で煉獄の言葉が燃え、愛の呼吸の型に炎の呼吸の理論を重ね合わせる。呼吸を整え、動きを研ぎ澄ますと、刀は刃先から全身に伝わる熱のような力を帯び、累の糸を断ち斬る。
「今だ、知令!」
義勇の声が背中を押す。視線の先にある彼の瞳は冷静だ。知令は胸の奥で高鳴る感情を戦術に変える。覚醒した力はまだ完全に制御できないが、義勇との呼吸の連携で一瞬の閃きが生まれる。彼の隣で刀を振るうたび、心は静まり、判断が冴え渡る。
累は最後の力を振り絞り、糸を猛然と飛ばす。
知令は直感で避け、同時に愛の呼吸・伍ノ型の連続斬撃で反撃を加える。炎の呼吸の型を思い出しながら、斬撃を力強く繋げ、累の動きを封じる。その間、義勇が冷徹な一撃を放ち、累は遂に力尽きた。
森に静寂が訪れる。濃い霧と糸の切れ端が漂う中、知令は膝をつき、荒い呼吸を整える。心はまだ興奮と緊張で震えているが、義勇が肩に手を置き、静かに支えてくれる。視線を交わすと、言葉はなくても互いの安堵と信頼が伝わる。
「……無事か?」義勇の低い声が、森の静けさの中で響く。知令は微かに頷く。胸の奥に熱が走り、涙がわずかに頬を伝う。戦闘中に何もできなかった自分への悔しさもあるが、同時に力を出し切った達成感が心を満たす。
知令は静かに刀を握り直す。義勇の隣に立ち、疲れた身体を感じながらも、頭の中は戦いの反省と次への戦略でいっぱいだ。戦闘で狂気を帯びた力を無意識に解放したことにまだ気づいていないが、その力が仲間を守ることに繋がった事実だけが、胸を熱くする。
「……お前の力は、ただの頭脳、ただの優しさだけじゃない。」
義勇の声は低く、震える感情を隠すように抑えられている。
知令は胸を押さえ、視線を逸らさず、心の中で誓う。
───もう二度と、守るべき人を守れない後悔を味わわないと。
森に夜風が流れ、二人の呼吸と鼓動だけが残る。戦いの余韻とともに、知令は初めて義勇の存在の大きさを実感した。と同時に煉獄との話も思い出して心を熱く燃やした。戦闘の疲労と興奮が混ざる中、夜は静かに更けていった。