第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】
稽古の最後、煉獄は刀を背に置き、夕暮れの空を見上げた。知令もその隣に立ち、呼吸を整える。二人の間には言葉はなくとも、深い理解と信頼が芽生えていた。戦場で暴走した自分の力も、この稽古を通じて少しずつ制御できる手応えを感じていた。
「チッ!知令から離れろ!任務だ!任務!那田蜘蛛山!知令は那田蜘蛛山に向かえ!」
2人で静かに空を見つめていると銀次郎がやってきた。
どうやらそろそろ出番のようだ。
「那田蜘蛛山か。気を抜くんじゃないぞ!」
煉獄の声に、知令はうなずく。胸の奥で少し緊張が走るが、それ以上に、煉獄が教えてくれた戦える心強さが心を満たす。
「……煉獄さん、私、もっと強くなって、あなたの隣に立ちます。」
言葉に力を込める知令に、煉獄は無言で微笑み返す。強い信頼と、言葉以上の感情が静かに交わる瞬間だった。
夜が訪れ、庭の木々が長い影を落とす。焚き火もなく、静けさの中で二人は互いを意識し合い、呼吸と心の距離を確かめる。知令は、心の奥で小さく決意した。これからの戦いで、彼の力となり、同時に自分も守り抜く強さを手に入れると。
「行ってきます。」
「うむ!健闘を祈る!」
煉獄との稽古は、ただの技術向上にとどまらず、心の絆を育む時間となった。知令の胸には、初めての恋心と、戦場での覚悟が重なり、刀を握る手に確かな力を与えていた。この力をもち、彼女は那田蜘蛛山へと向かう。