第2章 頭脳という刀
誰もいなくなった夜の道場は、静かで、冷たかった。
私は、昼間に投げかけられた言葉を何度も反芻していた。「お嬢様には、向いてないよ、こんなこと」。それは真実だった。
私は彼らとは違う。彼らが背負う鬼への憎しみや、家族を失った悲しみ。それは、私のような人間には到底持ち得ないものだ。
だからこそ、私は彼らと同じ土俵で戦うことはできない。
「でも…私にしかできないことが、あるはずだ」
私は、手のひらの上に置かれた自分の頭をなでた。父や母が、私を慈しみ、知的好奇心を満たすための本をいくらでも与えてくれた。お館様が、私の「頭脳」に期待してくれた。それは、決して無駄なことではなかったはずだ。
私は、稽古場の一隅にある机に向かい、日中つけた鬼の動きの記録を広げた。昼間、隊士たちが必死に刀を振るう様子を、私はただ見ているだけではなかった。彼らの動き、鬼の反応、そして鬼の弱点。それらを冷静に観察し、分析していたのだ。
この頭脳を、私の唯一の武器として、この道を進んでいく。
私の戦い方は、刀を力強く振るうことではない。思考という剣で、鬼を斬るのだ。そう決意した瞬間、私の心に灯った小さな希望の火は、確かな炎へと変わっていった。
そんなある日のことだった。