第2章 頭脳という刀
しかし、ただ1つ問題があった。
最終選別という大きな壁が、私の前に立ちはだかっていたのだ。
どんなに頭脳を磨いても、鬼と対峙する勇気と、鬼を斬る力がなければ、正式な隊士にはなれない。
鬼殺隊士の卵たちが集う稽古場は、私の知るお屋敷の庭園とは全く違う、鋭利な空気が漂う場所だった。
皆、顔に泥を塗り、汗と涙を流しながら一心不乱に刀を振っている。彼らの瞳は、鬼を倒すという明確な目標を宿し、一点の曇りもなかった。
私はその中で、異分子存在だった。
「はっ…はっ…!」
道場で刀を振るうが、私の剣は空を切り、風を切るような鋭い音は出ない。他の隊士たちの、力強く、そして美しい剣技を見るたびに、私は自分の無力さを痛感した。
彼らの刀が、まるで生きているかのように鬼の首を狙う様を想像するたび、私の胸は締め付けられるようだった。
ある日、休憩中に一人の隊士が、私に冷ややかな声をかけた。
「そんなに無理をしなくてもいいんじゃないか?お嬢様には、向いてないよ、こんなこと」
その言葉は、私の心を深く抉った。彼の言葉には、悪意だけではなく、諦めにも似た諦観が混じっていた。
「わかっております…!でも、私にはこれしか…」
私は、ただただ震える声でそう答えるしかなかった。
「これしか、って…お嬢様には、他にもたくさんの道があるだろう。俺たちは、これしか道がないんだ。家族を鬼に殺されて…」
彼の言葉に、私は何も言い返すことができなかった。
そう、彼らと私は根本的に違うのだ。
彼らの背負う悲しみ、怒り、そして使命感は、私のような平和な箱庭で育った人間には到底理解できないものだ。彼らにとって、鬼殺隊に入ることは、家族の仇を討ち、自分たちの人生をかけて成すべきこと。私にとっては、それは憧れであり、自己満足に過ぎないのかもしれない。