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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】


午後の日差しが庭を柔らかく照らす中、知令は再び刀を握り、足運びと呼吸の連動を意識して稽古に励んでいた。汗が額を伝い、息が荒くなるたび、心の奥に眠る不安と、戦闘で感じた無力さが微かに蘇る。

しかし、隣に立つ煉獄の存在が、知令の気持ちを落ち着かせ、刀に力を込める手助けとなっていた。

「いいぞ、愛染!呼吸が体の隅々まで届いている。次は動きの精度を上げるぞ!」

煉獄の声はいつも熱く、鼓舞するだけでなく、信頼と期待が混ざっている。知令は深呼吸をし、刀を振る角度を微調整する。振り終えた刀が空気を切る音と、自分の鼓動が重なり、次第に集中が研ぎ澄まされていく感覚を覚える。

「煉獄さん……」

小さく呼びかけると、煉獄は視線を向け、柔らかく微笑む。その笑顔だけで、知令の胸の奥の緊張がふっと解ける。身体の疲労はあるが、心の中の温かさがそれ以上に広がり、刀を握る手に力が戻る。

稽古の合間、煉獄は知令の動きをじっと観察していた。彼はただ指導するだけでなく、彼女の表情や呼吸の乱れから、心の状態も読み取っているようだった。
知令はそれに気づくと、少し顔を赤らめ、目を逸らす。しかし胸の奥では、自分のことを見守ってくれる存在に、淡い感情が芽生え始めていた。

「お前の強さは、体だけじゃない。頭の良さ、そして…心の強さも、刀に乗せることができる。」
「はいっ!」

煉獄の言葉に、知令は胸を高鳴らせる。守られるだけでなく、守りたいと思う感情も同時に湧き上がり、戦場で感じた無力さを少しずつ埋めていく。刀を握る手に熱が伝わり、思わず煉獄の手を借りたくなる衝動を覚えた。

二人は汗に濡れた髪を拭い合いながら、自然と距離が縮まる。無言の時間が続く中で、互いの呼吸が近く、心の温度が伝わる。知令は初めて、自分の感情を言葉にせずとも、相手に伝わることの心地よさを知る。

「……煉獄さん、私、少し強くなれた気がします。」

知令の声に、煉獄は微笑みながら頷く。
胸の奥に、彼を信じ、心を預ける覚悟が芽生えていた。稽古は肉体の鍛錬だけでなく、心の距離を縮める時間でもあった。戦闘前の静かな時間の中で、二人の間には確かな絆と、ほんのりとした恋心が育まれていく。
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