第12章 紅色の瞳の先【煉獄編 第1話】
「お前の中の力は、悲しみと憎しみが引き出したものだ。だが、それが無意味ではなかった。」
言葉は簡潔だが、力強く胸に響く。知令は視線を落とし、胸の奥で小さく震える。
「……煉獄さん……」
思わず呼んだ名前に、煉獄は少し微笑んで応える。
「俺に話してくれて、ありがとう。お前が心を開いてくれたこと、それだけで俺は嬉しい。」
彼女の視線がふと煉獄の胸元に落ち、筋肉の盛り上がりや温かい息遣いを感じる。自分の心臓が早鐘のように打つのに気づき、知令は小さく息をついた。
「……これからは、少しでも戦いに備えて、強くなりたいです。」
震える声に、煉獄は力強く頷いた。
「いい心掛けだ。…そうだな。俺が教える。お前の力を正しく使えるように。」
その距離は、言葉以上に近く、互いの温もりが伝わる。手のひらの温かさ、息遣い、そして微かに香る彼の匂い。知令の胸の奥で、守られたい、そして彼を信じたいという気持ちが、ゆっくり膨らんでいく。
数時間の静寂の中で、知令は自分の感情を整理し、戦いへの覚悟を新たにする。煉獄は無言で寄り添い、その背中と腕の温もりで、まだ幼い心に安心感を灯していた。
夕暮れが近づく頃、知令は少しずつ体を起こす。煉獄はそっと手を差し伸べ、彼女の手を取った。
「……行くぞ。これからも、共に戦う仲間として」
その声に、知令の胸が熱くなる。言葉だけでなく、その手と体温が、彼女に勇気を与えるのだった。