第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】
──彼らを守らなきゃ。
けれど、自分にできることは何もない。悔しさが胸をかきむしる。
頭を回転させて、少しでも義勇の助けになれることを探す。糸の動き、累の仕草、戦況の変化───目に映るすべてを必死に焼き付けて。
その刹那、累の糸が炸裂する。炭治郎が吹き飛ばされ、禰豆子の身体が縛り上げられた。
「──っ!!」
知令の喉から声が迸る。伸ばした手は、しかし届かない。
累が楽しげに嗤い、糸をさらに締め上げようとした瞬間。
水面のような静けさと共に、義勇の影が疾駆する。
「水の呼吸・拾壱ノ型……凪」
──空気が、止まった。
次の瞬間、累の糸はすべて無に帰す。
知令は呆然とその光景を見つめた。あまりにも静謐(せいひつ)で、あまりにも強い。その背中に、抗えぬ憧憬(どうけい)と、とめどない鼓動が重なっていくのを感じながら。
──彼は、私の命だけじゃない。
あの兄妹の未来までも、守ろうとしている。
胸が締めつけられるように熱くなる。
そして同時に、悔しさも込み上げる。
自分はただ見ているしかできない。
けれど、せめてこの瞬間を焼き付け、彼に繋げる道を探す。
戦いの結末を前に、知令は強く心に誓った。
──私は、隣に立てる人間になる。