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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】


「……あれが、“十二鬼月”の一人だな。」

義勇の呟きに、主人公は思わず喉を鳴らす。
鬼の少年――累は、まるで無垢な子どものような笑みを浮かべて、しかし目の奥は冷たい光で満ちていた。

「ねぇ……お姉さん、俺の家族になってよ」

唐突に向けられた言葉に、知令の心臓が跳ねる。彼の視線は、捕食の対象を見るものではない。もっと粘着質で、歪んだ執着に似た光を宿していた。

「……っ」
足が一瞬竦む。家族。
その言葉に、胸の奥に封じ込めていた記憶が暴れ出す。血に染まった家、倒れ伏す両親、伸ばした手が届かなかった。

「お前には渡さない。」

義勇の低い声が、その悪夢を断ち切った。主人公の前に立ちふさがる彼の背中は、鋼のように揺るがない。

累は面白そうに目を細め、白い指先を軽く動かす。その瞬間、無数の糸が木々から奔り出し、二人を絡め取ろうと襲いかかる。

「っ、来る!」

知令は咄嗟に身を引き、義勇の刀が空気を裂く音を聞いた。水面を描くように舞い、鋭く糸を断ち切るその姿は、あまりに速く、美しかった。

だが累は怯まない。むしろ愉快そうに笑みを深めた。

「いいなぁ……その強さ。やっぱり僕の“家族”に欲しいな。」

挑発的な声に、主人公の胸がざわりと波立つ。
──家族。
奪われたものを嘲るかのような響きに、喉の奥が焼けるように熱くなる。
怒りと恐怖、悔しさがないまぜになり、視界が赤く滲む。

「…私は……!」

震える声で何かを言おうとしたとき、義勇の手がそっと彼女の肩を押さえた。

「下がっていろ」

その一言で、ようやく呼吸が戻る。
彼がいる。
彼の背中が、狂気に呑まれかけた心を現実へと引き戻した。

けれど、累は次の標的をすでに定めていた。彼の赤い瞳が炭治郎と禰豆子の方へと向けられる。

「……あの二人、僕の家族にする。」

その言葉に、義勇がわずかに目を細める。
知令は唇を噛み、祈るように炭治郎たちの姿を追った。必死に戦い続ける少年と、彼を守ろうとする妹。その絆は、決して歪んだものではない。だからこそ、累の“家族”という言葉が、いっそうおぞましく響いた。
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