第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】
「僕は累。…家族が欲しいんだ。僕には、それが必要なんだ。」
累の声は、驚くほど幼く、かすかな甘さを含んでいた。
だが、その言葉の裏に潜むものは、血のように冷たい。
「……家族?」
思わず私は呟いてしまった。
“家族”という響きが胸を突き刺した瞬間──
焼け落ちる家、流れた血の匂い、伸ばしたはずの手の感触。
脳裏に、あの日の光景が鮮烈に蘇る。
動揺を押し隠そうと、唇を噛んだ。
だが、累はまるで私の心の奥を覗き込むように、薄く笑った。
「……君も、家族を失ったんだろう?」
ぞっとした。
どうして知っているのか。
言葉を返そうとしたのに、喉が張りついて声が出なかった。
「だからわかるはずだ。僕が求めているものが、どれほど大切か」
累の声音は静かだった。
だがその奥には、狂気じみた執着が滲んでいた。
彼の口から語られる“家族”は、絆ではなく、鎖だった。
「本物の絆なんて、脆いものだよ。血で繋がっているはずなのに、簡単に壊れる。
だから僕が作る。僕が支配して、僕が守るんだ。そうすれば……絶対に離れない。」
その瞬間、私の中でなにかが軋む音がした。
(違う……それは“家族”なんかじゃない……!)
心の奥で否定の叫びが響いたのに、身体は凍りついたまま動けなかった。
それほどまでに、累の言葉は私の“喪失”を抉っていた。