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【鬼滅の刃】屋烏の愛

第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】


山の入り口に立つと、湿った夜気が頬を撫でた。
濃い靄が低く垂れ込め、木々の間からは不気味な糸が幾筋も垂れている。生温い風が通り抜けるたび、かすかなざわめきと共に糸が揺れ、異様な光景を作り出していた。

「……気を張れ。ここは、普通の山ではない。」
「…義勇さん。」

いつの間にか、義勇が前に立ち、低い声で告げる。

その背に続きながら、私はうなずいた。彼の言葉は冷静で短い。しかしその声が夜の闇を裂くたび、不思議と胸の奥の恐怖は和らいでいく。

(義勇さんが一緒なら……きっと、大丈夫。)

足元で小枝が折れる音に、身体がびくりと跳ねた。即座に義勇は振り返り、私の肩へと手を添える。
その掌の温かさが一瞬にして伝わり、心臓が跳ねるように高鳴った。

「落ち着け。……俺が守る。」

短い言葉。しかし真っ直ぐな瞳が、闇の中でも強く光を帯びていた。頷き返すことしかできなかったが、その一言で足取りは確かになる。

やがて奥へ進むと、蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸の罠が目に飛び込んできた。
その中心には、人のような姿をした鬼たちが、糸に操られるかのようにぎこちなく動いている。

「……操られている。鬼の仕業だ。」

義勇が刀を抜き、静かに構える。その刃が月明かりに淡く光った瞬間、風が切り裂かれ、鬼の首が飛んだ。

目にも止まらぬ速さに、私は息を呑む。
その姿は、無駄のない研ぎ澄まされた動きで、まるで夜の闇そのものを斬り裂くかのようだった。

「後ろにつけ。」

短くそう告げられ、義勇の背に影のように続く。

糸が迫るたび、義勇の刃がそれを断ち切り、道を切り開いていく。私はただその背を追うしかできないが、心の中で、次第に彼の存在が恐怖よりも強く胸を占めていくのを感じていた。

(こんな状況なのに……どうして、安心してしまうんだろう…。)

やがて視界に現れたのは、糸を操る「母」と呼ばれる鬼の影。糸に縛られた剣士たちが、操り人形のように襲い掛かってきた。

「俺が前へ出る。……お前は、死ぬな。」

義勇が振り向きざまに言う。その言葉の強さに、胸の奥が熱くなる。

「はい……! 一緒に戦います!」

震える声で返したその瞬間、鬼たちが一斉に襲い掛かってきた。

夜の山に、刀の閃光と鬼の叫びが交錯する。
義勇の背中は一度も揺らがず、私はその姿にただ目を奪われていた。
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