第2章 夢魔と少女の話【R18】
「あれだけの生気を吸ったのにこの肌艶に活力…何より美味だった」
「ちゃんと、答えて下さい。あなたは誰なの。なんで私が見えるの」
男は私の首筋を指でなぞり、くつくつと喉を鳴らして笑うと漸く問いに応じた。
「私は夢魔。人間の夢に入り、まぐわう事で生を得ているのだ。が夢だというこの世界は、ここに存在している。この世界で眠ったお前の夢に私が現れたのだ」
「……どういうこと?」
二重の夢を見ていたということだろうか。あの辺り一面の暗闇がもう一つの夢で、そこに男──夢魔が…生を得るために?現れた。
ひとつひとつ頭で整理する。では今のこの状況はなんだろう。これは夢のはず。この世界が存在する?
腕の合間から夢魔を見上げる。赤い瞳は暗がりの水溜まりのようにぬらりと私を映していた。
夢魔は大きくも薄い手で私の髪を撫でる。
「現実のお前は眠っているのだろう?」
心無しか柔らかくなった夢魔の声色に恐る恐るこくりと頷いた。
「この世界は実在するが、ここにいる、お前は違う。他の人間に見えないのはお前に実体がないからだ」
「……幽霊、みたいに?」
「そうだ」
「ここは本当に、あるの?私の想像の世界じゃなくて?」
「ああ。私からすればお前が何者なのか、どこの人間なのか知りたいところだな」
長く人々の暮らしや景色を見ているだけだった夢の世界。この世界が実在する。正直なところ半信半疑だ。しかし、突如として干渉され、干渉することができる相手が現れたのだ。
ここで誰かと会話をしたのは初めてだった。
「私は普通の人間で、でも今みたいに、ここに来る夢を見るの。……いつもは人に話しかけても誰も反応しないのに」
「私も普通の人間には姿を見ることはできない。人間が私の姿を視認できるのは夢の中でだけだ。今のお前は私と同じような存在なのだろう」
「よく、わかんない……」
夢魔は私の髪から指先を離すと背と脚を支えながら抱き起こした。ベッドに座らされ、また何かされるのかと警戒する。距離を取る為に枕を下敷きにするのも厭わず壁際まで後退りした。立てた膝は心許ないけれど彼を拒む壁だ。
夢魔はそんな私を気にも留めず、手のひらを上にしてお経か呪文のような言葉をつらつらと唱えた。