第2章 夢魔と少女の話【R18】
すると、夢魔の手のひらに黒い光が灯った。光、というよりも砂鉄のような黒い粒子が宙を舞い、月光を弾いて光っているようにも見えた。
光が手の中心に収束すると、そこには手に収まるほどの大きさの黒い輪があった。腕輪、だろうか。側面に一周、赤い字のようなものが描かれている。
夢魔は私の太腿に触れると指先を内腿に滑らせた。びくりと体が揺れる。夢魔の腕を両手で押さえて退かそうとしてもまるで歯が立たず、声を押し殺して耐えるしかなかった。
「やっ…やめて」
「本命がまだだったと思ってな」
「ふあ、あっ…やぁ、やだっ…!」
長い舌が首を伝い、指先が内腿から中心へと、爪を掠めながら楽しげに揺蕩う。今まで出したことの無い声に顔に熱が集まった。足で剥き出しの腹をこれでもかと蹴飛ばしてみたが、夢魔は眉ひとつ動かさず私の左足を掴んで黒い輪を通した。
「なんでこんなこと、するの…」
「言っただろう。人間とまぐわうことで生を得ると。お前の生気は他の人間と違い底が見えない。どこまで奪えば尽きるのか興味がある」
夢魔の指が下着に掛かる。頭の奥で危険を知らせるアラートが鳴り響いていた。
青ざめる私の唇に生温い舌が這う。これは夢。夢。夢なら何したって大丈夫。どくどくと心臓が波打つ。私は意を決して夢魔の舌に噛み付いた。
「っ…くく、人間如きが」
夢魔は口許の血を拭うと、私の太腿から足にかけてゆっくりと指を滑らせた。足首に着けられた黒い輪が揺れる。
「このアンクレットは印だ。着けている限り、は私のモノ。何処にいようと見つけられる」
「は、なにを……」
恍惚とした笑みに息を呑む。
「また夢で逢おう」
大きく息を吸って飛び起きると、そこはいつもの私の部屋だった。足首には何も無い。そう、夢だ。夢だったのだ。荒い呼吸を整えて汗ばむ額を拭った。