• テキストサイズ

短編 創作

第2章 夢魔と少女の話【R18】



──────

誰もいない古びた教会。
今は使われていない廃墟だ。街の外れにあり、昔は神父がここで教えを説いていた。子供の頃の私はここで神父の教えを聴くのが好きだった。意味は分からなかったけれど。もしかしたら、神父の声が好きなだけだったのかもしれない。

教会の中をくるりと見渡す。鮮やかなステンドグラスは昔のままだ。女神や天使、動植物などが描かれている。適当な席に座って天井のステンドグラスを見上げた。

「」
「わぁっ!」

目の前に現れた黒髪の男に驚いて飛び上がる。

「夢魔……」

最も会いたくない人物だった。ぐに、と頬を抓ってみても現実に帰ることは無く冷や汗が垂れる。
夢魔は不快げに眉を顰めた。

「何故こんなところにいる」
「知らない。気づいたらここに居たから」

夢なんてそんなものだろうと思う。家だったり、外だったり、知ってる場所だったり、知らない場所だったり。
この世界の夢を見る時もいつも適当な所にいて、時間も天気も規則性は見られない。今回もまた私が望んで教会に来た訳ではなかった。

「忌々しい場所だ」
「私は、好きだけど」
「ほう?」

警戒心を緩めず見据えると、夢魔は見下すような視線を私に向けた。何を考えているのか分からない赤い瞳は恐怖を感じさせる。
腰に布を巻いただけの露出した体のみを見れば天使のようなのに、獣を思わせる瞳は映画に出てくる悪魔のようだ。

「ならばここで神に見せつけてやるとしよう」

嫌な予感がして逃げ出そうとしたが掴まれた手首がそれを妨げた。強く引っ張られ夢魔の腕の中に閉じ込められる。力で適わないことはもうわかっていた。それならばと目の前の胸板に歯を立てる。
夢魔はくつくつと笑い私の頬を片手で掴んだ。

「躾のなってない子猫だな」
「は、離して」
「お前でなければ既に生気を奪って殺しているぞ」
「私のことも殺せばいいよ、できるなら。できないんでしょ」
「それを試すのだ」

今、ここで。
にたりと口角を上げる夢魔の目は笑っていない。背筋が冷える。ステンドグラスの女神は変わらず遠いところを見ていた。

/ 14ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp