第1章 あすかさん
そして、見つからないまま三週間が経とうとした日のこと…いよいよ捜索願を出そうと考えていた時だった。
仕事で所属する事務所に赴く。事務所に行く用事なんて普段はほとんど無いため久しぶりだ。
事務所の廊下を歩いているとやけに若い清掃員が目に留まった。おばちゃんだけじゃないんだな、なんて通り過ぎようとして、彼女と目がばちりと合った。
俺は息を飲んだ。
「…!?」
「あ、あすかさん?」
たった三週間、彼女は以前より大人びた風だった。は相当驚いたのか手に持ったモップを落としそうになって慌てて捕まえていた。
「黙っていなくなってごめんなさい。」
「いや…俺も怒鳴っちゃってごめん。完全に八つ当たりだった。」
今までどうしていたのか問いかけると、彼女はモップを壁に立てかけながら口を開いた。
「私、あすかさんに見合う女性になりたいと思って…あれからすぐお仕事探したの。それで、社宅がある清掃会社に仕事が決まって……ずっと働いてたの。」
なんでも話してもらえるような、頼れる、ペットじゃなくてちゃんと自立した人間になりたくて。はそう続ける。
「それでね、これなら大丈夫だと思ったらあすかさんのところに戻ろうって…それまでは一人で頑張ろうと思ったの。お家のことも少しずつ出来ること増えたんだよ」
俺の様子を窺うように寂しげな笑みを浮かべた。
いいんだ、何も出来なくたって…だって、俺は…
「、うちに帰ろう。帰って話したいことがある」
「でも…」
「は俺の妻だろ?俺のこと知って欲しい。だから…」
懇願すると、彼女は困った顔をしながら頷いた。その表情が以前の彼女より幾分も大人っぽくて思わず心臓がドクンと脈打つ。ああ、やっぱり一目見たときから惹かれていたんだと改めて実感する。
「じゃあまた後で。あすかさん、お仕事がんばって。」
「もね。待ってるから。」
夕方に事務所の前で待ち合わせようと提案したけど、人に見られるのは良くないから直接お家に向かうと返されて。自分よりしっかりした彼女の言葉に感嘆の息を零した。この短期間で何があったんだろう。いや、変わらせてしまったのは自分か…。胸につっかえる罪悪感に苦しさを覚えながら仕事を済ませて家路についた。