第1章 あすかさん
そわそわしながら部屋の片付けをして彼女の到着を待つ。携帯などの連絡手段を持たないため、いつ着くのかと落ち着かなかった。
まるで初めて彼女を家に呼ぶ彼氏みたいで自嘲する。一応、夫婦なのにな。それらしいこと何もしてない。
ピンポンとチャイムが鳴る。
「はい」
「です」
が家のチャイムを鳴らすのは初めての事だった。我が家に住んでいる時は半引きこもり…いや、軟禁状態で、俺と出かける時以外はずっと部屋にいたからだ。
鍵を開けるとが恐る恐る玄関に足を踏み入れた。部屋まで先導すると静かについてきた。
「俺ね、自分の名前嫌いなんだ。だから、に知られてその名前で呼ばれるのが嫌だったんだ」
「どんな名前でもあすかさんはあすかさんだよ」
「そうだね…なんか、意地になってた」
はは、と笑って頬を掻くとも首を傾げて微笑んだ。
「俺の名前は、園村健太。改めて、俺と結婚してください」
手を差し伸べて告げるとは目を見開いて、その瞳に涙を浮かべる。一呼吸置いて、うん、と小さく答えて手を取るとぼろぼろ涙を溢れさせた。俺は泣き虫は変わってない、と笑って手を引きを抱きしめた。
「あすかさん」
「ん?」
「好きです」
がそう言って笑うから、俺は彼女の頬にキスを落とす。は目を丸くしたかと思えばすぐに頬を真っ赤に染めた。
そんな純粋さを守りたかったんだ。だけど、唇にやってきた柔らかな温もりに俺の思いは呆気なくどこかへ飛んでいった。
「こういうこと、してほしいって思ってた。あすかさんの妻だから。」
真っ赤になって必死な顔で言うものだからもう耐えられないよね。俺は今まで何してたんだ…彼女の世話して撫でて、それで充分だって思ってた。いや、自分に言い聞かせてたのに。は違ったんだ。ずっと求めてくれていたんだ。
「…ごめんね。ありがとう。」
「ん、」
お返しを唇に落とすとたどたどしく背伸びして首に腕を回す。そんな仕草が愛おしくて堪らなくて。今まで抑えてきた物が溢れてその日はずっと引っ付いていた。
夜中に編集作業に追われたのは言うまでもない…。
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