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短編 創作

第2章 夢魔と少女の話【R18】



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なんだってあんな夢を見たのだろう。ヨッキューフマンというやつだろうか。恋のコの字も知らないのに?
その手の話だっていまいちよくわからない。

溜息を一つ零して放課後の廊下を歩いた。人気のない選択教室に入り机の中から目当ての教科書を回収した。何を思ったのか授業後机の中に閉まって持ち帰るのを忘れたのだ。
無意識の行動とは怖いものだと苦笑した。

「あれ、?何してんだ?」
「向野先輩。ちょっと忘れ物取りに…」

不思議そうな顔で扉の前に立つ向野先輩に少し驚く。教科書を胸の前で持って見せれば先輩はそっかと笑った。
向野先輩はこれからサッカー部の練習なのだろう。ユニフォームを着ている。彼とは去年の文化祭実行委員会で一緒だったのだ。

「そうだ、これやるよ」

手招きする先輩に、首を傾げつつ近寄ると缶のココアを渡される。よく冷えているのに触れた先輩の手は温かい。変なの、と小さく笑ってお礼を言うと先輩は屈託のない笑顔を返した。

その時だった。
足首に痺れに似た痛みが走る。あまりに急な痛みに屈んで顔を顰めた。

「えっ、どうした?大丈夫か?痛むのか?」
「う…大丈夫、です」
「いやいや大丈夫な顔してないじゃん」

向野先輩の手が背中をさする。触れた場所に熱が集まり、次第に呼吸が荒くなる。いたい、あつい、くるしい。

「おい、顔真っ赤だぞ!熱あるんじゃ…」

立っていられない。くらくらする。体から力が抜けて倒れ込みそうになったが、すんでのところで先輩が支えてくれた。先輩のシャツを掴み、ぼんやり重たい頭を預ける。

「ほ、保健室行こう!な?つかまっ、て、わわっ!」

しがみついたままずるずると崩れ落ちる。バランスを崩した先輩も道連れに。暑くて息が苦しい。床に転がったココアは汗をかいている。

「こうのせんぱい、すみません」
「や、気にすんな。起きられるか?」
「んん……」
「無理しなくていいから!少し休め」
「でも、部活が、あ…んっ……」

倒れ込んだ先輩の脚の上から退こうと身を捩るが立ち上がることができない。足首からじわじわと広がる痺れは徐々に熱に変わり、疼くような感覚が全身に廻る。
自分が自分じゃなくなるような、変な感じ。私はこの感覚を知ったばかりだった。でもあれは、夢だったはず。


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