第1章 後宮下女
「またやってるな」
女性と見まごうような繊細な輪郭に、切れ長の目、絹の髪を布で包んで残りを背中に流しており、天女のようであると言われている宦官、壬氏はその端正な顔に憂いを含ませた。
宮中の花たちが騒ぎを起こすなどはしたないことだが、それを収めるのが彼の仕事の一つだった。
騒ぎの中心地に向かっていると、その人だかりから外れてこちらに向かってくる女がいた。
二人とも小柄で、鼻から頬にかけてそばかすが散っている。特に目立った風貌ではないが、何か真剣に考えている様子で、自分にも目をくれずに独り言を言っているのが印象に残った。
ただ、それだけのはずだった。
東宮が身まかられたという話が回ってきたのは、それから一月もしない頃であろうか…
泣きわめく梨花妃は、先日よりもさらにやせ細り、大輪の薔薇といわれた頃の面影はなかった。
あれでは、次の子を望むこともできまい。
公主と東宮は同じような原因不明の病にかかっていた。
一方は持ち直し、一方は倒れた。
年齢による違いであろうか、三か月の差とはいえ乳幼児の体力には大きく影響を受ける。
しかし、梨花妃はどうだろう?
乳幼児の公主が持ち直したのなら、成人している梨花妃も持ち直してもいいであろうに。息子を亡くした精神的なものなのか。
壬氏は持っている情報で分析していく。
…違いがあるとすれば玉葉妃のほうか…
最後の書類に判を押し終わると、壬氏は部屋を後にした。