第1章 後宮下女
「さて、どうするかな…」
姐さんが踵を返して歩き始めたので、それにぴったりくっついて一緒に歩く。
「一気に根元を叩くなら…双方に同時に手紙でも置いちゃう?お届けなら私がこーーーーーっそり…やっちゃうよ?なんなら得意だよ?」
「…頼もしいな。」
姐さんはフッと笑うと書けるものはないかとブツブツ呟きだす。
思考の海に入ったときには邪魔せずそっとしておく。
良い案が思い付くかもしれない…と、 も一緒に思考の海に飛び込んだ。
下女の生活に、紙はない。もちろん筆も紙も。識字率が低いからだ。
だが、上級妃の侍女には教養がある…はず。
なんでも良い…形よりも何よりも…時間だ。
早ければ早いほど良い。
特に今回の場合は…
廊下で、やけにデカい野郎二人とすれ違う際に、前を歩く野郎…宦官の腰帯がひらめくのが視界に入った
あ……
そっと自分の服を見下ろす。
いける…!!
一つ閃けば、あとはこっちのもの。
「姐さんっ…」
「… ?」
この時、姐さんの役に立ちたいという気持ちが先行しており、すれ違った野郎のことになど意識を向けなかった。
それが後々めんどくさいことになるとは知らずに……
その夜、人々が寝静まった後宮の外れの森で小さく風を切る音が響いた。
ヒュッ…ヒュヒュッ……ピュッ…
お使いが終わって、自分の部屋には帰らず。ほとんど人が通ることの無い
助けるつもりとはいえ、かなり位の高い妃を相手にするのだ。何があってもおかしくない。最悪不都合は一番下のものに全て押し付けられてしまう。
今回関わることで一番下位に当たるのは姐さんと…私。
何かあったときに姐さんは守れるようにしとかないと…
重心移動を利用して素早く横凪ぎの一線…から勢いを殺さずそのまま回転して眼前に構え、前に簪を突き出した。
貫かれたのは、たまたま落ちてきた木の葉。
「ちょっと…鈍ったかな…」
葉の中心からわずかに外れて貫いた簪…半年もサボっていたのだ…
感覚を取り戻すため、東雲の空になるまでひたすら簪を振り続けた。