第4章 夢遊 ※高
小さく頷いてくれる芙蓉妃。
今日の訪問の目的は、これよりも…
「手を見ても良いですか?」
「…はい?」
笑顔で両手を差し出す。強引な手法だが、おずおずと芙蓉妃は手を出してくれた。
もともと素直な性格なのだろう。
「指先…ちょっと傷がついてますね。」
「……。」
「私もあの壁登ったんで、思ったんですよ。無傷で登れる壁じゃありません。」
「……そう、ね。」
「じゃ、治しちゃいましょう。」
「はい?」
手の傷の具合を見ながら、サラッと言った言葉に芙蓉妃の動揺を感じる。
「武官様の前に立つときに、美しい姿で立てるように。まあ、名誉の勲章でしょうがそれでも…綺麗だと思って貰いたいじゃないですか!!」
ドヤ顔で懐から出したハンドクリームを見せつける。
「これはハンドクリームです。皮膚を滑らかにする効果があります。これで手の皮膚全体を美しくします。」
「…始めて見たわ…」
「私が作ったものなので…世には出回っていません。本当ははちみつの匂いだけするものなんですが、特別に柑橘の香りを混ぜました。」
ハチミツに柑橘の匂いは相性が良い。芙蓉妃の手に刷り込んでいると部屋の中が柑橘の香りに包まれる。
「良い匂いね。」
「ありがとうございます。今回のハンドクリームは私の自信作です。今やったみたいに手全体に馴染ませて、指1本1本推拿(マッサージ)するように刷り込んでください。」
侍女達に説明をする。実施する侍女の手にも効果があるので是非やって下さいと伝えておく。
後は姐さんに作って貰った傷薬を出した。
「夜の舞は続けて貰って大丈夫です。ただ…」
「ただ?」
「壁登りは危ないので、気を付けてくださいね。月光浴ははるか西の方では肌や髪に艶を与えると言われてるので、怪我しない限り賛成です。」
ニンマリ笑って言うと、始めて芙蓉妃の笑顔が見られた。