第4章 夢遊 ※高
夢遊病ではない。夢遊病は周りの人間をここまで鮮明に認識できない。歩いている先に人がいても避けずに歩くし、視線が定まっていないものなのだ。本人は夢の中にいるのだから。
「そのまま踊っていてください。適当にそれっぽく動いたら帰るので。」
「...」
「貴女の夢遊病の治療依頼を受けました。」
「...」
「貴女を害するつもりはないことだけ、伝えておきますね。」
視界の端に、姐さんがいる東屋が見える。暗くて鮮明には見えないが、人が二人立っており、こちらを見ていることも確認できる。
「背後に見える東屋で他に2人居ます。長居はしないので大丈夫だとは思いますが、視界の端ででも、人影がないことを確認して帰ってくださいね。では、失礼します。」
踵を返す際に、体を捻り、髪をひっつめている結い紐をほどいた。
これで姐さんには通じるはず。
高順と話をしていた猫猫は、 が動いたことに気付いた。
もともと動くだろうと予想をしていたから気付いたのだが、 がどういう人間なのかを知らない高順は、まだ気付かない。
芙蓉妃を見つめながら話を続けている。
案の定、城壁の上に がフラりと現れた時に高順は言葉を失っていた。
ふわり、ゆらりと舞う芙蓉妃と対比させるためか、いつも以上に固い動きで歩いている。高いところは怖くない...どころか、好んで登るタイプなので、固くなるはずがない。
どうせ後にバレる演技だろうけど…
芙蓉妃の顔を覗き込むような仕草をして、近づいたり、ぶつからないように離れたり器用にぎこちなさを出して動いている。
少しして体を反転させたときに の髪紐がほどけて、髪が宙を泳ぐ。
芙蓉妃の手を避けたような動きだが、その程度で緩むような括り方はしていないので故意だろう。それを意味するのは…
ーーー黒ーーー
まあ、そうだろうとは思っていたが。
「高順さん。芙蓉妃が踊るのは東門だけですか?」
「え?…あぁ、そうですね。そう聞いてます。」
もともと自分から話す方では無いが、 から意識を逸らすため、思い付くどうでもいい内容の問いかけをする。視線を猫猫に向けるのには成功した…が、あまりにもつたなくて一問一答常態が続く。 、早く帰って来い…