第4章 夢遊 ※高
自分達の4、5倍ほどの高さがあるこの城壁の外側には深い堀がある。死体が沈んでる噂が立つくらいには大きくて深い。また、門の内側には宦官、外側には武官が二人ずつ衛兵が張り付いている。二重構造になっているので、詰所も内外側についている。門も人力ではなく牛を使用するほど頑丈で重たく、本気の隔離体制だ。
だから、後宮からの脱走は極刑を意味している。
とんでもないところに売られたものだ。
とりとめの無いことを考えながら待っていると、それは現れた。
半月を背景に宙を舞う白い女の影。
長い衣とヒレを纏い、踊るような足取りで城壁の上に立つ。
長い黒髪が闇のなかで照らされ淡い輪郭を際立たせている。
幽霊と勘違いするのも理解できるほど、現のものとは思えぬ幻想的な美しさだった。
「月下の芙蓉…」
「勘が良いですね。」
姐さんが、城壁の上を見つめながらぽつりと呟くと、高順が驚いた顔で猫猫を見た。
中級妃である彼女の名は「芙蓉」。先月、異民族を撃退した勲功として、来月に武官に下賜されることになった妃だ。深く話を聞いていくと、彼女とその武官は幼馴染みであるということが分かった。
...なるほど...
は、高順と猫猫が色々話しているのを良いことに、そっと気配を消してその場を離れた。
妃が城壁の上にいるということは、必ず足場があるはず。高い木があるのか、それとも梯子のように足場があるのか...
城壁沿いを歩いていき、ある場所で足を止めた。
「ここ...か。」
夢遊病というのは、良く分からない病気である。
寝ているのにあたかも起きているような動きをする。
原因は…心の軋轢
トントンッと軽快な音を立てながら城壁の上に到着し、思うことはひとつ。夢遊病患者にこの城壁は登れない。
流石に登りきる前に落下する危険度だ。
常日頃から登っているなら話は別だが、夜寝ている間だけ...というのには無理がある。
「っ!?」
「止まらないで。そのまま続けて。貴女夢遊病でしょ?周囲に反応してはダメ。」
「...。」
誰もいないと思っていた所に、いつのまにか人が立っていたことに驚いたのであろう扶養妃の動きが止まりそうになったのを阻止した。