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薬師助手の秘密【R18】

第4章 夢遊 ※高



姐さんは、なるべく保存が効くように薬草を乾燥させて粉末にして調合しているが、それでも薬は高温多湿を避けて保管しなくてはならない。より湿気から守るために陶器製の瓶に入れて密閉するのが普通だが、この医務室は高価な紙が豊富にあるので紙に包んでから陶器に入れることでより保管期間を伸ばすことが出来る。
調合が姐さんの仕事なら、その後の管理が私の仕事。


「流石姐さん…仕事が綺麗だわ…」


姐さんが調合した薬は全ての薬草が均一に混ざっていて、どこを掬っても各薬草が同じ分量になる。原材料の薬草は大きさも固さもバラバラなので完成形を計算して種類別に挽き方を変えている証拠だ。
姐さんが今作っているのは風邪のひき始めに服用する総合感冒薬。
ナマズ先生が、患者さんに処方するときに分かりやすいように、名前と分量目安まで明示しておいた。


「嬢ちゃんは綺麗な字を書くね。」
「…ありがとうございます」


ナマズ先生が私の手元を覗き込んでいるので、手を止めた。


「良い先生に習ったんだね。」
「…厳しくは教わりました。字で人を見ることもあるから、ちゃんと綺麗に書けるようになりなさいと。」
「そうだね。字には性格が出と言うからね。綺麗だし、一画ずつ丁寧に書いてるのがよく伝わる字だよ。」
「ありがとうございます。」


お礼を言いながら、字を習っていた頃を思い出す。
背後に鞭をもった人が立っていて、少しでも歪むと叩かれていた…あの環境がとても良いとは…今でも思わないけど、実際にちゃんと読める字が書けているから…良い先生…だったのだろうか…当時の痛みを思い出したような気がして肩がフルリと震えた。


ナマズ先生のところで保存用の感冒薬を作り、用法・容量を説明した薬屋姉妹は場所を翡翠宮の台所にうつし、帰路で収集した薬草の仕訳をしていた。


「なにをしているの?」


不思議そうに手元を覗き込んで効いていたのは翡翠宮の侍女の一人。


「薬草の仕分けです。」


姐さんは、もともとあれこれ喋るタイプではないので返答はシンプル。
ふうん?と手元を見ている侍女の視線が姐さんの左手の包帯にチラチラと向いている。翡翠宮の侍女達は姐さんの腕に負担がかかる...と思われる仕事は全て取り上げていくので、何も言ってはいないが、怪我や傷跡、後遺症の類いの心配をしてくれているのだろう。

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