第3章 媚薬 ※壬
笑顔で歩けば、誰もが足を止め見惚れる美貌であることは自覚している。試金石としての最大の武器でもある。
しかしあの薬屋の2人は心底嫌そうに顔をしかめるし、小さい方に至っては毛を逆立てそうなほど警戒してくる。
決して嫌われて喜ぶ癖を持ち合わせているわけではないのだが、妙に新鮮で、面白い。
新しい玩具を手に入れたような気分だ。
玉葉妃の話によると、薬屋姉は毒味を全く恐れる素振りは無いらしい。妹の方は嗅覚、味覚が鋭いらしく茶を誰が煎れたか分かるらしい。ますます面白い2人だ。
直接見たくなって、翡翠宮では出されないであろう茶を持って行ってみた。
「…見た目は緑茶だけど…色が違う?いつもの太平猴魁じゃない…新しいお茶?…香りが違う…甘い……飲んだこと無いお茶…美味しい…誰のかは分からないけど…」
何時ものお茶も同等の高級茶だがやはり違いが分かるらしい。
気に入ったのかもったいぶってチビチビ飲んでいるのが小動物のようだ。
なら、これも出してみるか。間違いなく何かが入っている。想像はつくが…
「薬屋、貰い物なんだが、これも味見してくれないか?」
軽い実力試しの遊び感覚で出してみたが、食べずに分かるとは…思っている以上に有能だ。
しかも食べるようすすめられたが、入っているものが分かってるのに…
「食べるわけないだろ。」
「ほぅ?好みの美女ではなかったと?なかなか好みがうるさい…」
薬屋妹の片眉が器用に跳ね上がる。姉に比べて感情が素直に出るようだ。
「はぁ……くれたのは男だった。」
「なるほど?体力が心配?…強壮剤の追加盛り??」
そっちかーと言わんばかりに手をポンッと叩いて中指と親指を弾いてパチンと良い音を出しているのが、何か腹立たしい。
「要らないし食べないから!食べること前提で話すな!」
「なら姐さんに食べさせようとするな変態。」
「なっ……!」
あー言えばこー言うというか…変に頭の回転がいいと言うか…
だが、女相手にこんなに会話が楽しいと思うのは初めてかもしれない。