第1章 後宮下女
ここで、大人しく働いていればそのうち出られる。
醜女である私が御手付きになることは…まぁ…ありえないだろう。
大好きな姐さんと養父の家で培ってきた、【野郎が求める女】から自分が遠く離れていると知っているから。
肉付きの悪い手足、凹凸の無い胴体、顔面に散らばったソバカス…くすんだ黒髪…どこに野郎の下半身を刺激する要素があると言うのか、いや無い!!!
しかし、残念なことに の考えは甘かった。
人生というものは何が起こるか分からないものなのだ。
自分も一度それを体験しているくせに、完全に油断していたのだ。
何の変哲もない日常を、目立つことなくたんたんと過ごす日々。
いつか帰れる日に少しでも持って帰れるものがあれば…と、薬草になり得る雑草を摘んで乾燥させて保管したりはするが…
仲良くなる下女もおらず、ひたすら仕事をこなしていた。
気付けば働きはじめて半年弱。となれば、色々な事が耳に入るようになる。
後宮で生まれる乳幼児の連続死。
先代の側室の呪いだと言われているが、呪いで日とが殺せたら、今頃多くの人が命を落としている。
何かしらの原因があるのだろう。
「ーーーーーーー。」
洗濯物を抱えて、思案しながら歩いていた の耳が小さな声を拾った。
かなり離れたところから聞こえるが、この声は…
認識すると同時に は駆け出していた。
聞き間違えるはずがない。
だってこの声は…
「姐さんっ!?」
「…… ?」
声が聞こえた方角の建物の角を曲がり、叫んだ。
耳がここにいると教えてくれたので、確信をもって声を出した。
つり目の大きな目を更に大きく開いてこちらを振り返るのは、間違いなかった。
家にいるはずの...猫猫姐さんだ。
「こんなところで何してるの姐さん!!」
「 こそ、こんなところで…何してんの。」
「まさか、採集に夢中になり過ぎて、人攫いに気付かずうっかり捕まって売り払われたんじゃないでしょうね?」
「……そのまさかだけど、 はなんでいるの?」
「もちろんそうやって私が売り捌かれたからよ!」
「なぜ胸を張る…」
ドヤ顔していたら、額を指弾されたが、このやり取りも懐かしくて、表情筋が緩んでしまう。