第1章 後宮下女
洗濯物の届け先は下級妃嬪。個室は与えられているが、専属の下女は二人までしか持てないので、洗濯物等の雑務は主人のいない のような下女が行っているのだ。
目的の部屋について、扉を軽く叩く。
扉が開いて、無愛想な下女が顔を出す。
「そこにおいといて」
「かしこまりました」
部屋の中に少し入り、棚の上に洗濯物を置き、新しい洗濯物を回収する。
甘ったるい香りが漂う部屋の奥では、妃が物憂げに酒杯を揺らしている。
下級妃嬪は一度でも皇帝のお手付きになれば、部屋を宮内の端から中央側に移動することができ、二度目があると出世を意味している。
部屋の内装を見るに、中々派手な調度品の数々…豪商の娘あたりだろう。
宮内に入る前だったら、一二を争う美人だろうが、ここはそういう人たちが集まる宮…上には上がいるのだ。所詮は井の中の蛙…
最近は部屋の外にも出ようとしないが…部屋の中にいたところで誰の目に留まるというのだ…
最後まで皇帝に手をつけられることなく適齢期を過ぎると、よほど実家の権力がない限り位が下げられたり、下賜かしされてしまう。
特に宦官に下賜されることを官女たちは恐れているようだ。
子が欲しいのであればそうだろうが、好きでもない男のものにされるのであれば、どう考えたって象徴を失くした人のところに行く方が、平和じゃないか…
本来の の性格のまま表現するならば、好きでもない野郎に良いようにされるなんて真っ平ごめん。である。
伴侶が好きなのか、子作りが好きなのかは大きな違いがある。子に愛情が待てない間柄になるのであれば、待っているものは不幸だ。
まあ、そんなことを考えるのは……私くらいなんだろうけど……
は隠しきれない嫌悪感を抱いたまま、洗い場に戻った。
仕事はまだたくさん残っている。