第1章 後宮下女
遡ること一月、 は薬草調達に出かけた義姉を探しに森に入った。
薬師として…なのか、個人の強い興味なのか…判断に困るほど薬の材料に異常な興味を抱く義姉は時間を忘れて没頭することがしばしばある…いや、ほぼ常に…だろう…
そんな姉を迎えに行くのが、 の日課だった。
普段は周囲への警戒を怠らない だったが、この日は違った。
「うわ…なにこの毒々しいキノコ…もろ姐さん好みじゃん…どうやって持って帰ろう……」
義理とはいえ、姉である猫猫を心から慕っている は、自分のことよりも義姉のことを優先するきらいがあった。
だから気付くのが遅れてしまったのだ。
背後に怪しく忍び寄る村人壱、弐、参に。
気付いたときには時遅し、後宮の下女として売り捌かれた後だった。
としては一生関わることのないはずの場所だった。
むせ返る化粧と香の匂い、美しい衣を纏った女達は皆一様に笑みを張り付けている。
何を考えてるのかさっぱり分からないのが薄気味悪い。
義父や義姉のお手伝いをして来た には、決して動くことのない、美しく整えられた鉄壁の笑みほど恐ろしいものはないと知っていた。
だから、今日もひたすら気配を殺して黙々と布団子の処理にいそしんでいた。
洗った布を洗濯棒にかけて天日に晒し終えたら、次は洗濯済みのものの配布だ。
のように拐われて来た人も少なくないので、働いている者の識字率はそんなに高くない。植物の絵と数字が記載された木札で配布場所が分かるようになっている。
早く仕事を終わらせたくて小走りて廊下を移動する。
途中する違う女官や宦官に会釈し、道を空けることは忘れない。
後宮は基本男子禁制である。入れるのは、国で最も高貴な方とその血縁、あと象徴を失った男性、宦官だけである。もちろん、ここにいるのは皇帝以外は後者だ。
現在は先帝の花の園には到底及ばないものの、女性は妃、女官合わせて二千人、更に宦官を加えると三千の大所帯だった。
拐われて来た には後ろ楯はなく、今、最下層の下女として働いている。
器量が良ければ下妃になる可能性もあるようだが、凹凸もなくソバカスが目立つ にはないだろう。